2012年6月1日金曜日

序文サンプル『アポカリプス・ハイ』



ここでは今年初めてのブログ更新になるのだろうか?

今年2012年3月より、長らく休刊していた「Webマガジン・ボヘミアン」が装い新たにリニューアルして還ってきました(帰還・帰着しました)。
サイト内コンテンツ『アポカリプス・ハイ』を担当している筆者(タケシ・トラバート名義)も、一貫性のない「ブログ投稿」という安易な方法で(極めて不定期的に)ときよりアップしています。

が、

入稿方法がより簡素化され、〆切も特になく、ほとんど個人的な「ブログサイト」と化してしまっております。

そんなわけで、6月からは隔週連載といったカタチで勝手にノルマを自分に課して、「定期連載」としての体裁を、強引にも保とう努力致します(?!?)

【 同Webサイト➔http://web-bohemian06.sblo.jp/ 】

現在、定期連載(隔週)に向けて、時間をみつけては書きだしている草稿、雑稿、等々から、サンプルのひとつを一部、このブログに載せてみようかと血迷いました。



  ◆以下::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

(前略)


何を失ったかよりも、何を手に入れてしまったのか……、ここ数週間のあいだわざわざ意識して無視し、トンズラ音頭と決め込んでた。
正直のところどちらも忘れかけてしまってた。


ところが、常にその存在感を所持者にアピールしてくる種類の「記憶」がある。
悩ましいほど、かなりある。
そして本人はわりと頻繁に、そんな尋常ならざるシュプレヒコールにあっ気なく負けてしまう。
でも、負けてからが勝負。ガス欠してもうビクリとも動かなくなったバイクのタンクにキスして路肩にぶん投げ、次のトラフィック手段を探しにかかる。


いまだに頭の中が交通状態で不平不満のクラクションがアチラコチラから聞こえてこようと、あぶら汗を流しながら冷静さを装う。
いつコワレルときが来るのかドキドキハラハラしながら……。




その長く美しいブルネットがうっすらと初老色にブレンドされたシヴァ・リーは、ふと正気に戻ったぼくが、さすがに聖者たちの前でサルの神像に筆を入れるなんてナーバスで何だか気が滅入ってきたよ、と溢すと、その何事が起こっても冷静沈着な彼女が優しく、そして怖ろしいほどクールにそっとつぶやいた。


「やれると感じたことだけやればいいのよ」


シヴァ・リーのそんな他人事のようなひと言には、あの時だけじゃなく今もよく救われている。
「やれることだけ」と、「やれると感じたことだけ」という表現の間には、その言葉の重みと深さにおいて、あまりに深すぎて巨大な溝がある。もしあの時、
「やれることだけ、やれるところまで頑張れば、それでいいのよ」
と彼女がつぶやいたなら、たぶんぼくは逆に不安に駆られていたかもしれない。


*


さかのぼること、その数週間前。
ヒンドゥーの神様で猿の姿をしたハヌマーン像を祭る小さな祠に、わたしはいた。


最後に塗り直されてからかなりの歳月が経ち、色がほとんど剥げ落ちたハヌマーンを前にし、祠の住職でもあるサドゥーにむかって無謀にも「ぼくが塗り直してみましょうか」などと軽口を叩いたの始まりだった。
(後略)


takeshi traubert marumoto